マテリアル工学における先端デバイス工学というのもおかしなものだと思うかもしれない。 しかし、よく考えてみるとデバイスの原点を支えているものは、ほとんどの場合、マテリアルそのものなのだ。 その特性をうまく使って、デバイスといっているが、実はマテリアルの特性を見ているのだ。 つまりマテリアルの研究から、はじめて新しいデバイスの芽が出てくると言ってもいいと思う。 そのなかで、我々は面白く、今現在でも役に立ち、そして将来にも価値のある研究をすすめたいと思っている。 研究だから、今はともかく将来に役に立てば良いという言い方もある。我々はそうは思っていない。 今役に立つことも重要であると考えている。ただ役に立ち方をしっかり考えなくてはいけないということだ。 世の中を変えようという野心も結構、もっと地味な研究も結構、どちらも重要だ。ただ、我々が持っていたいのは、言い訳をするような研究はしない。 自分にプライドを持てる研究をしたい。この気持ちは持っていたい。研究室メンバー全員がそのような気持ちで文字通り日夜頑張っている(と思う)。
以下は本郷の研究室に進学してくる3年生向けに学科パンフレットに書いたものであるが、
これはいつの時代にも研究室メンバーに望みたい。
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2003年学科パンフレットより
パッションを武器にプライドを持て。
大学において主役であるはずの君は大きな希望を持って本郷に来たはずだ。君が大きな舞台を演じきれるように、僕たちは持てる力を精一杯ふりそそぎたいと思っている。そんな僕たちを時には煩わしいと思うかもしれないし、時には毎日勉強していることにさえ疑問を持つこともあるかもしれない。そんなことは、時代は変わっても皆が経験してきたことである。大いに議論していこう。ただ覚えておいてほしいことは、ここは決してサークルでもなく、仲良しクラブでもない。僕たちは教官であり、君は学生であり、大学は両者で作り上げていく真剣な学問の舞台であるということだ。そして僕たちは君がプロとして演じられるように、君が恋人を思う以上に真剣に取り組むつもりである。
マテリアル工学科には様々な領域の研究をしている教官がいる。環境、金属、ナノ、バイオ、と材料に関するいろいろな研究が文字通り日夜続けられている。しかし、僕たちがこういった分野の研究をしているからといって、進学してきた君がただその専門だけを早いうちに学ぶことを期待しているわけではない。多くの分野があるということは、学問を始めるもっとも重要な出発点で、マテリアルのもっとも重要な多くの領域の基本を学べるということを意味している。このことをよく理解してほしい。
君が研究者として技術者として活躍する時には、社会が要請する材料は今とは違っていて当然だろう。同じ事がそのままの知識として役立つとしたら、それは進歩が止まってしまったことを意味する。しかし、その進歩の基礎になっている考え方は、過去を振り返っても常に連続的につながっている。時折見えるジャンプは、狭い領域でのジャンプにすぎない。そう考えると、広い分野の基盤を学べる君は本当に幸運な時にマテリアル工学科に進学したと言える。
これから本郷で学ぶ2年間、新しい時代のマテリアルを根底から考えていこうとしている君には大きなプライドを持ってほしい。いや、真のプライドを持てるように日々に流されずに努力してほしい。その際に君が使える武器は情熱(パッション)と若さであろう。しかし僕たちも情熱では決して君に負けない。我々の館である4号館は、現存する東大工学部の建物の中ではもっとも古い。この最古で強固な建物の中で、学生も教官も沸々と煮えたぎる熱い情熱を武器にして、単に強固というだけではない新しい時代のしなやかな基盤を作っていこうではないか。僕たちは君に大きな期待をしている。
ようこそマテリアル工学科へ。
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